2月の短編小説

2月の小説アイキャッチ 冬物語
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2月 1日  匂いの日 

 話には聞いたことがあるが、まさか自分にそんな不幸が降りかかるなどとは考えてもいなかった。

「先生、なんとかならないのですか!」

わたしは主治医に、つかみかからんばかりの勢いで喰らいついた。

「そうですね・・・奥さんは交通事故の後遺症で記憶を失っているのです」

白衣の医師はカルテを眺めながら冷静に説明するだけであった。

そばに居る看護師は済まなそうにうつむいているばかりだ。

「すぐに元に戻ることもあります」

頭に包帯を巻いた妻を一瞥して医者はそう言うのだった。

「戻らなければ?」

ぼくは泣きそうになった。

「一生この状態のことも・・・いや、新たにあなたとやり直すということも一つの選択肢ではありますが・・・」

「無理ですよ!」

わたし達は新婚ホヤホヤの夫婦だった。

ちまたでは、あんな美女がわたしなんかとどうして結婚したのかと、好奇な目で見るのが常だった。

それはそうだ。

金持ちでもない。学歴もない。おまけに容姿だって大したことがないのである。

妻の香澄かすみがわたしの愛を受け入れてくれたこと自体、わたしでさえも謎だったのだから。

こんな奇跡が二度と起きるはずがないのだ。

看護師が気まずそうにうつむいている。でも小刻みに肩が揺れているのは、ただ単に笑いをこらえているからなのかもしれない。

それからというもの、わたしは連日妻のもとに通いつめた。

しかし当の香澄は嫌な顔をするばかりであった。

昔の仲むつまじかった写真をみせる。香澄は合成写真ではないかと眉をひそめた。

つき合いだしたばかりの頃、デートで買ったお揃いのペンダントをみせる。妻は新手の詐欺かなにかではないかという顔をするばかりだ。

妻の好きだった、わたしの唯一の得意料理『おぼろ豆腐』を作って病室で食べさせてみた。毒でも入っているかのような顔をして箸もつけなかった。

誕生日にわたしが自作した愛の歌をギターで唄ってみた。妻は耳をふさぎ、周りの病室から苦情が殺到した。

とうとう香澄はわたしに最後通告を出したのだった。

「もういい加減にしてちょうだい。いいこと、わたしがあなたみたいな男と結婚なんてするわけないじゃない。よく鏡を見てから考えなさいよ!」

わたしの中で何かが音を立てて砕け散った。

「ああもういい!お前なんかもう知るもんか。離婚だ。離婚してやる。これでも喰らえ!」

逆上してしまった。

気がつくと、わたしはこともあろうに、妻の顔めがけて放屁(ほうひ)していた。

ああ、なんてことをしてしまったのか。もうこれで何もかも終わりだ。

「・・・伸ちゃん。伸ちゃんじゃない。あたしどうしちゃったのかしら?」

女性は男性よりも匂いに敏感なのだそうだ。

どうやら妻は、わたしの強烈なガスの匂いで記憶を呼び覚ましたらしい。

周囲を見回している。

「ここって病室よね。お医者様は?」

「いや、しばらくは誰もこの部屋に入れることはできないよ。いろんな意味でね」

2月 2日  夫婦の日

「男ならドーンと行け!当たって砕けろよ」

「そ、そうすか」

田代祐輔たしろゆうすけは豪快な飯島いいじま課長のグラスに勢いよくビールを注いだ。

ビール・グラスが白い綿帽子をかぶる。きょうは仕事が早めに引けたので、帰り際に行きつけのバルに立ち寄ったのである。

「なんだおまえ、気が小さいな。近頃の若い奴ときたらまったく」

「酔った勢いで言っちゃいますけど。それがもの凄くいい女なんですよ。ぼくには敷居が高いのかと」

「バカ言っちゃいけないよ。男は顔じゃない。ここだよ、ここ」

そういって飯島は胸をドーンと叩いた。

「でもなんか、彼氏がいるっぽいんですよね。もしかしたら人妻かも」

「そんなの関係ないよ。男がいようがいまいが、恋にルールは無用だ」

「さすが先輩ですね。それじゃあ、いっちょうアタックしてみようかな」

「行け、行け。じゃあ成功を祈願して乾杯だ!」

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

その日、いつものようにカフェのテラス席に、三条美和子さんじょうみわこの姿があった。

つば広の帽子をはすにかぶり、手にはファッション誌らしいグラビアのページが開かれている。

長い脚を組み、アイスティーのストローを口に含む。

「あの。失礼ですが」

美和子の前に、祐輔が立っていた。

「あら、先日の・・・」

「覚えていて下さったのですか」

とたんに祐輔の顔に明かりが灯ったようだった。

「もちろん」

にっこりと美和子が笑う。

「あの時には助かりました。今日はお礼が言いたくて」

「いいんですのよ」

あの日、突然のゲリラ豪雨で、雨宿りしていた祐輔にそっと傘を差しだしてくれたのが美和子であった。

「これ、ありがとうございました。三条さんとおっしゃるのですね。お返ししたくてずっと持ち歩いていました」

「あら、どうしてわたしの名を?」

「裏に刺繍がありましたから」

「まあ」

「ありがとうございました。それで、もしよろしければこれを機会に・・・」

「ちょっと待った!」

気のせいか。背後から飯島課長の声がしたような気がした。

「あら、あなた」

あなた?声の主は、やはり先輩の飯島だった。

「祐輔。おまえの相手というのは」

「はい、この方ですけど・・・」

「このひとだけはやめておけ」

「え、なぜです。ドーンと行けって」

「人妻だ」

「だれのです」

「おれのだ」

「はあ?だって名前が違うじゃないですか」

「美和子、だから“夫婦別姓”はやめようって言ったじゃないか」

「あら、あなた。そんなの関係ない。ドーンと行けって言ったでしょ」

「人妻でも構いません」

と祐輔が食い下がる。

「アホ!おれが構うんだよ。近頃の若い奴ときたらまったく」

2月 3日  海苔巻きの日

 はるか銀河系の彼方より、エイリアンの集団が地球を侵略するために接近して来ていた。

「隊長。この星はいくつもの国に分かれているようです」

「そうか。それでは手始めに、海に囲まれたあのちっぽけな島国でも侵略するとしようか」

「グヘヘヘへ」

UFOの大群が日本に向けて急旋回して行く。

「たいへんです隊長!この星の先住民が、一斉に黒い大砲と思われる砲口を、わが軍に向け始めています」

「何!」

エイリアンの隊長がモニターを食い入るように見つめた。

「なんだあの異様な大砲の数は・・・全軍回避だ。退却せよ!」

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

『今年は※※※の方角です』

テレビからアナウンサーの声が流れる。

「はーい!」

日本全国の家族が、大きく口を開け“恵方巻えほうまき”を一斉に空に向けたのであった。

2月 4日  西の日

「シンガポールが小国ながら、あそこまで経済発展したのは、国をあげて風水を取り入れたからだって知っていたか」

わたしは、友人の田島たじまに自慢げに話しだした。

「へえ、そうなんだ」

「そこでだ、わたしの家もそれに習い、自分の家を風水に則って建築したというわけだ」

「ふうん。それでこのヘンテコな家が出来上がったんだね」

田島はわたしの正方体の家を見上げた。

「ヘンテコとは失敬な。いいか、まずこの家は正確に東西南北を向いて立てられている」

「ほう。だから周辺の家とは建っている向きが“チグハグ”なんだな」

「チグハグとはなんだ。まず、西は金運をアップさせるために、壁一面を黄色にした」

「それで金が入ってくるとでも」

「うるさい。そしてだ。東は太陽を表現していて、成長と発展のにした」

「なるほど、なるほど」

「なるほどは一回でいい。次に側の壁だ。健康運がアップするだ」

「ほんとの真緑だなこれは」

「そしてだ、の壁は、子宝にも恵まれるラッキー・カラーのオレンジだ。どうだ」

極彩色ごくさいしょくだなあ。眼が痛くなりそうだよ」

「言ってろ。最後に家の中央部にもあたる天面の屋上だが、ここはラッキー・カラーのにしたのさ。どんなもんだい」

自信たっぷりにわたしの風水節を訊かせてやった。

「これ以上の風水はない。究極の家の完成だ」

「良くわかったよ。・・・でも周りをみてみろよ。なんだか人が集まって来ているみたいだぜ」

「うんうん、わかるよ。彼らはこの家の開運エネルギーに、引き寄せられたのに違いない」

そのうちの眼鏡をかけ、背の高い、やせ細ったオタク系の男が近づいてきた。

「あの、みんなの代表として、ひとつご質問させていただいてよろしいでしょうか」

「はい、なんでしょうか」

わたしは満面の笑顔を男に向けた。

男の胸に、『puzzla』というバッチをつけているのが少し気にはなっていたが。

「床面の色はもちろんですよね」

わたしは憤慨して答えた。

ルービック・キューブじゃねえわ!」

2月 5日 ふたごの日

こんなことが世の中にあるのだろうか。

ぼくは貧しい画学生である。アルバイトをしながら絵の勉強をしていた。

そんなある日、裕福な家のお嬢さんが、絵の教師を捜しているという話を聞きつけた。

ぼくはさっそくその豪邸に赴き、面接を受けたのだった。

分厚い絨毯じゅうたんが敷き詰められたリビングで、ぼくは初めて加奈子かなこと両親にお会いした。

高貴な香りのする紅茶をいただく。

両親は気さくな好人物たちであった。

加奈子は静かに両親とぼくの会話に聴き入っているのであった。

そして彼女の透き通るような瞳は、まるで生物のいない湖のような純粋な色をしていた。

結果、ぼくはその日から家庭教師を始めたのである。

ぼくはデッサンの仕方、筆の使い方、配色の仕方、遠近の出し方など一通り教えて行った。

彼女はまるで白いカンバスのようであった。

幼い子供が、ひとつひとつ言葉を覚えていくように、素直に上達していくのが手に取るように分かるのだった。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

「今日はここまでにしようか」

「はい、先生」

彼女はひな菊のように小さく微笑んで筆を置いた。

カンバスには、花瓶に刺されたガーベラが途中まで描かれている。

「先生のこと、少しお話して下さらない」

絵具で汚れた白い指を拭いながら、加奈子はわたしの目を見つめた。

「今日はいつになく積極的だね。何について話そうか」

「先生が小さい頃のこととか知りたいわ」

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翌日わたしは加奈子の画廊に入った。

そこでいきなり目にしたものに驚愕してしまった。

書きかけだった加奈子の絵が、何者かによって上から別の色を重ね塗りされていたのだ。

それが恐ろしく斬新で、エネルギッシュなタッチで塗られていたのでもはや原型を留めていなかった。

しかしよく観ると、そのタッチには独創性があり、これはこれでひとつの作品として成立していたのも事実である。

そこへ加奈子が入ってきた。

「きゃ!だれがこんなことを」

加奈子は小さな手で口をふさぎ叫び声をあげた。

そしてその場で気を失ってしまうのであった。

「加奈子さん!加奈子さん!」

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

「この家には、誰かまだいらっしゃるのですか」

加奈子をベッドで休ませたあと、応接室でぼくは加奈子の両親と一息ついていた。

東城とうじょう君。きみには黙っていようと思っていたのだが、こうなっては仕方がない」

ロマンスグレーに口ひげをたくわえた主人が、妻と目くばせをする。

「加奈子には双子の姉がいるのだ」

「え、そうだったのですか」

冴子さえこというのだが、少し性格に難があってな」

「そうなの。まったく加奈子と真逆っていうのかしら」

上品な母親が目を伏せる。

「普段は部屋に閉じこもっておってな、めったに出てこないのだよ。いわゆる」

「引きこもり・・・ですか」

「そう思っていただいて結構だ。だが、気にせんでいい。東城君は加奈子のことを観ていてくださればそれでいいのだ。引っ込み思案だった加奈子が最近明るくなってくれた。なあ」

夫人はこくりとうなずいた。

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それからしばらくは何事もなく時間が過ぎていった。

ただ変わったことといったら、ぼくと加奈子の間に、確実に小さな愛が芽生えはじめていたことぐらいである。

その日、いつものように加奈子の画廊に向かうと、向かいの扉がいきなり開き、女性が顔をつき出した。

髪は巻き毛で、目つきは鋭く、派手な紫のワンピースを着ている。

さすがのぼくも驚いた。その顔は間違いなく加奈子にそっくりなのである。これが冴子さんなのか。

「ねえ、あんた。加奈子にこれ以上近づかないでくれる。あいつは薄いガラスみたいに傷つきやすいんだ」

「え、急にそんなこと言われても」

「何かあってからじゃ、遅いんだよ。わかったな!」

そういうと音を立ててドアがしまってしまった。

「あの、冴子さん。ちょっとぼくの話も・・・」

ドアを叩いても反応を得ることができなかった。

呆然ぼうぜんとした面持ちで、その日の授業は終わった。

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ぼくは加奈子の腕を引いて、豪邸を後にした。

駆け落ちだった。

ぼくたち二人は、すでに離れ離れになることなど考えられなくなっていたのだ。

ぼくと、加奈子の関係が両親に知れ、アルバイトの職を解雇されることになってしまった。

ぼくたちは、両親に一緒にさせて欲しいと談判したのだが、ぼくが貧乏学生だからという理由で一蹴されてしまったのだ。

横殴りの雨が、ふたりの行方を遮るように降り注ぐ。すぐに追手が現れた。警察に通報されたらしい。

ぼくたちはとうとう断崖絶壁まで追い詰められた。

「いいのかい」

加奈子はしっかりと頷いた。

ぼくは自分の左手に縛った頑丈な紐を、加奈子の右手に括りつけた。

「あたしたち、死んでも一緒よね」

「そうだよ。愛してる」

「愛してるわ」

「じゃいくよ」

ぼくたちは、荒れ狂う波の彼方に身を投げ出した。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

「・・・で、君だけが助かったというわけだ」

ぼくは気がつくと病院のベッドに寝かされていた。

目が覚めると、刑事がぼくの枕元のパイプ椅子に座っていた。

「加奈子は、加奈子はどうなったんですか」

「ああ、どうなんだろうね。こういう場合。死んだ・・・のか?」

「どういう意味です!」

「君を助けたのは誰だと思う。冴子だよ。彼女も君に惚れてたんだなあ。ただし、彼女は“心因性二重人格者”でな。時には加奈子にもなっていたんだってよ」

「・・・双子じゃなかったのか」

「だから、加奈子は死んだんだけど、冴子は生きているってわけだ。あんたこの先どうするね」

2月 6日  抹茶の日

「この慌ただしい現代社会。たまには抹茶を味わってみたいものだ」

「あ、それなら都内で五百円ワンコインで本格的な抹茶を飲ませてくれるところができたんだってよ」

「え、それはすごいじゃないか」

わたしはさっそく、教えられた住所を訪ねてみた。

「なるほど、これがそうか。古き良き日本家屋じゃないか」

門をくぐると料金は先払いのようである。

お金を支払い、枯山水の庭を順路に従って進んだ。静寂の中、鹿威ししおどしが高い音を響かせる。

畳敷きの茶室に座る。掛け軸や置物が素晴らしい。

「おお。たしかに本格的だな」

小さなお茶菓子が出てきた。わたしはゆっくりとそれをいただき、抹茶が点つのを待つ。

「この菓子もなかなかいいぞ」

まずは、軟水が容器に注がれ、釜でほどよい温度になるのを待った。

そして、湯冷ましと呼ばれる茶碗に一度お湯を移し、ちょうどよい温度になるように湯をさます。

抹茶が茶杓ちゃしゃくに2杯ほど茶碗に入り、湯を注ぐ。そして茶筅ちゃせんを縦に緩やかに動かす。

泡立ったところで茶筅を泡の表面まで持ち上げ、細かい泡ができるまで茶筅がゆっくりと動く。

「う~ん、おいしそうだ」

じゅうぶん抹茶が泡立ったところで、泡が中央に盛り上がるようにして静かに茶筅が上がった。

完成である。

「いただきます」

わたしは茶碗を引き寄せて正面に置き、右手で茶碗をつかんで左の手の平にのせ、右手を添える。

右手で茶碗を回し、正面の柄を避けて、何度かに分けて抹茶をいただく。

(こうなると、こっちも本格的な作法にならざるを得ない)

そして右手の親指と人差し指で飲み口を拭き、最後に自分の指を、懐紙で拭った。

「けっこうなお手前で。しかし・・・それにしても時間がかかりすぎますな。この自動販売機は」

2月 7日  北方領土の日

「そこの兵隊さん。中華そば食っていかないかい?」

花形がイヴァンにそう声を掛けたのは、第二次世界大戦が終了して間もない頃のエトロフ島だった。

「おれのところの中華そばは日本一なんだぜ」

見ると屋台に毛が生えたぐらいの小さなラーメン屋が、何もない平原の上にまるでお座りをした犬のように鎮座しているのだった。

「チューカソバ?それはボルシチよりもおいしいのですか?」

「あたぼうよ。おれはね、戦争は食文化で解決できると思っているのさ」

「いくらですか?じつは今、ルーブルしか持ち合わせがなくて」

「いいよ。レートなんてわかんねえから、今日は日露友好のためにこの花形源三がご馳走してやるよ」

イヴァンの表情に明かりがさした。

「悪いね。実は隊とはぐれてしまって、しかも空腹で死にそうだったのだ」

差し出された中華そばを、イヴァンが器用に割りばしで食べ始めた。

「兵隊さん。箸の使い方馴れてるね」

「うん」イヴァンは平たい縮れ麺を掻き込みながら「じつは日本食が大好きなのだ」と言った。

透明感のある醤油味のスープは、豚骨と煮干しの出汁が効いている。

イヴァンはスープまで飲み干した。そして空になったどんぶりを花形の前に置いた。

「ご馳走さま。これは美味しいですね!」

花形源三はイヴァンの食べっぷりに満足した。

これなら行ける。軌道に乗ったら色丹しこたん国後くなしり歯舞はぼまいにも店を展開しよう。

「わたしはイヴァン軍曹です。この味ならみんなにも勧められます。お店が繁盛するよう上官に便宜をはかりましょう」

イヴァンは心ばかりのルーブル硬貨をテーブルに置いたのだった。

「本当かい。そりゃあ助かるな」

花形とイヴァンは握手をしてその場を別れた。

しかし、ロシアとの間で“北方領土問題”は、ますます悪化の一途をたどるのであった。

日本にとっては昔から自分たちの土地、ロシアにとっては太平洋に抜ける重要な不凍海の拠点なのである。

双方どちらも譲ることはできないようなのだ。

花形の中華そば店はロシア軍の間でしばらく評判になったが、ロシア上層部の圧力で商売を続けることができなくなってしまった。

花形はやむなく本州に戻り、福島県に店舗を移転したのだった。

そして10年後、花形の店にイヴァンが訪ねてきた。

「花形さん、やっと会えました。わたしはあの時の味を忘れられませんでした。よかったです」

「おうイヴァン。よくここがわかったな」

「お店の名前をみてピンときましたよ。『北方きたかたラーメン』を改め『喜多方ラーメン』にしたのですね!」

2月 8日  〒マークの日

 この世の最期という時に、あなただったら家族に何を残しますか。

「マーク。悪いのだが、郵便配達をたのまれてくれないか」

その日局長は、英国から逓信省ていしんしょうに派遣された青い目のマークを呼んだ。

逓信省とは、現在の郵政省の前身である。

「イエス。ミスター前島。どうかなされたのですか」

マークは短く刈った金髪を、丁寧に撫でつけながら配達帽子を被った。

「実はだな・・・」

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

その日、西園寺さいおんじ家は騒然としていた。

西園寺家の当主である宗孝むねたかが病死したため、顧問弁護士の佐々木が遺言を読み上げていた。

「・・・よって、一部を除き、私財の一切を恵まれない子供達に寄贈することとする」

「ちょっと待ってくれ」

長男の一郎が叫んだ。「それじゃあ、遺産のほとんどを寄付するってことになるじゃないか」

「冗談じゃないよ」

二男の次郎が激昂した「それを当てにして投資していたおれはどうなる」

「いい加減にしてちょうだい」

今度は長女の揶揄子やゆこが騒ぎ出した。「そんなの無効よ、無効!」

「でも、法的取り分ぐらいはあるんでしょ」

三男の三郎が泣き出しそうな顔をする。

「もちろんです」

銀縁のメガネを拭きながら、弁護士は答えた。「奥様は昨年お亡くなりになりましたので。最低限ではありますが」

「納得できないわ。わたしがどれだけ父に尽くして来たかわかる?」

揶揄子が嚙みつかんばかりに佐々木に詰め寄る。

「なに言ってんだか。女中にほぼ任せっきりだったくせに」

二男が姉に攻撃を始める。

「まあ待て、ここは長男の俺が仕切る。佐々木、ところでその遺言にはちゃんと署名があるんだろうね。それ、無効にできないかな」

長男がそう言って笑いかける。「そうすれば、きみには法外な報酬を用意できるんだが・・・どうだ、悪い話じゃないだろう」

「ウホン。わたくしはそのようなことをできる立場にございません。この遺言書は不備の全くない公正証書でございます。ですので法的に完全に有効なものでございます」

「だからって・・・」

その時、玄関の呼び鈴が鳴った。

女中が部屋に入ってくる。そして佐々木に耳打ちをした。

「ただいま郵便が届きました」

「それがどうした」と一郎が言う。

「亡きご主人様からみなさんへのメッセージが届いたそうです」

ドアが開き、長身のマークが帽子を脱いで笑顔で部屋に入ってきた。

「やあ皆さん。ぼくは逓信省のマークといいます。この度は大変ご愁傷さまでございます」

そう言うとマークは鞄の口を開けた。「故人様からお預かりしたお葉書をお持ちいたしました。皆様おひとりに一枚ずつございます」

「葉書?」

各人がそれぞれ自分宛の葉書をマークから受け取った。

そこには一人一人の想い出と感謝の気持ち。各人の長所と短所。兄弟姉妹を大切にしろ。

そしてこれからはこのように生きよ、と人生の指針が達筆でしたためられていた。

「ああ、これはなによりもの財産だな・・・」長男の一郎が言った。

ほかの兄弟もはがきを見ながら悄然としている。

「額縁にでも飾っておくか。これを見ながら、またいちからやり直すとするか」

揶揄子に限っては、涙さえ流している。

「マークさんありがとう。おれ達、金にばかり目がくらんで・・・これからは兄弟助け合いながら生きて行くよ」

「・・・それはなによりです。その葉書こそが西園寺宗孝さまが残された、みなさんへの財産なのですよ」

郵便配達人のマークはドアに手をかけ、最後に振り向いた。

「あ、それから。その葉書に貼ってありますそれぞれの切手のことですが、時価にして億は下らない“ブルーモーリシャス”の切手だということを言い忘れておりました」

「!?」

「本日はぼくがお届けにあがったのも、あまりにも高額な郵便切手でしたので、ピストルを携えて配達させていただいたのです」

マークは快活に笑って去って行った。

その後、好青年のマークは『雄弁マーク君』と呼ばれ、郵政省のマスコットになったのだとか。

2月 9日  服の日

しおり。これ捨てといてね」

一番目の姉のサダコがぬいだ服を放ってきた。

「あ、ひとが捨てた服だからって、勝手に盗らないでよ」

そう言うと、二番目の姉のトミコはビリビリと自分の服を破いて栞に投げつけるのだった。

「ふん」

その隣で、爪の手入れをしている三番目の姉のアミが鼻で笑っている。

栞が拾い上げたそれらの服は、一着数万円はするブランドの洋服であった。

この五条家の新しい女たちは、流行が過ぎたというだけで、一度しか来ていない洋服であろうと、いとも簡単に捨てるのに抵抗が全くないようだった。

五条栞は母を中学生の時に亡くした。

つい数年前までは、紡績会社を経営する父と栞との二人家族であった。家事は栞も手伝っていたが、主には家政婦の静にお願いしていた。

そんなある日、父は美しい女性と再婚したのだ。しかも、栞よりも年上の連れ子を三人も連れてである。

「新しい姉が一度に3人もできたんだ。これで栞も寂しくないだろう」

楽観的な父は上機嫌でそう言ったのだった。

それからが悲劇の始まりである。

「あら、不経済ね」

継母ままははの一声で、まず家政婦の契約が打ち切りとなった。代わりに家事で孤軍奮闘こぐんふんとうすることになったのは、こともあろうに栞ひとりなのだ。

父の見ていないときに、継母と3人の姉はすべての家事を栞ひとりに押し付けてくるのである。

家計は継母が押さえていた。栞のお小遣いは必要な時に渡すということになり、実質栞の収入源は無くなったに等しい。

栞は毎晩のように、母を想って枕を濡らすのだった。

「でも、これで父が幸せならば仕方がない、わたしが我慢すればいいのだ」と自分に言い聞かせてはその哀れな状況に涙が止まらないのであった。

そんなある日、父の業界でファッション・パーティーの開催が決まった。

これ見よがしに、業界関係者とその家族がここ一番の衣装で着飾って盛大にパーティーを開くのである。

主催はキング・オブ・ファッションといわれるファッション界の重鎮じゅうちんと、その御曹司のフランツである。

フランツは新進気鋭のデザイナーで、マスコミから『ファッション王子』と呼ばれて久しい。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

「あらいけない」

パーティー会場である。

「お母様。どうしたの」

サダコが母をみる。

「このドレスに合うと思って買っておいた、ブレスレットを付けてくるの忘れちゃったのよ」

残念そうに眉をひそめる。

「あら、じゃ栞に持って来させればいいじゃない」とアミが言う。

「そうよ、じゃ私が電話してあげるわ」

そう言うとトミコは家に電話をかけた。「あ、栞。トミコだけど」

「はい、トミコお姉さま」

「悪いんだけど、お母様がブレスレット忘れちゃったそうなの。鏡台にあるから持ってきてくれない」

トミコはニヤリと笑う。「あ、それと、くれぐれも“ちゃんとしたパーティードレス”で来ないとだめよ。五条家の恥になるからね。わかった?」

「うん。わかった・・・」

電話が切れた。

最初から誘われていないけれど、行くつもりもなかった。でもどうしよう。栞は悩んでいた。

なぜなら、着ていく服がないからだ。数年前まで持っていたドレスはサイズが合わない。

「そうだわ」

そう、栞はファッションにも興味があったし、とにかく洋服が大好きだったのである。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

パーティー会場に栞が現れた。

彼女は見たこともないドレスに身を包んでいた。

その場のすべての来客者が目を見張るのだった。

「まあ、あの娘のドレス、なんて素敵なの」

栞は姉たちの捨てようとしていた、ボロボロに切り刻まれた洋服を捨てないで大切に保管していたのだ。

そして使えそうな100枚近いパーツをつなぎ合わせて、一着のドレスに仕立て上げたのである。

どよめきの中で、ファッション王子のフランツが、会話を止めて彼女に目を向けた。

「あれは・・・」

「お継母様、どうぞ」

栞はブレスレットを両手で差し出した。

「あなた・・・それ」

継母が唖然あぜんとした。

「ああ、それわたしの捨てた服の袖じゃない」

サダコが大声を荒げる。

「その襟。わたしの捨てたバルタンじゃん」

トミコが目を剥く。

「そのフリルだって、アミの捨てたジャネルだよね」

姉たちはそろって栞に飛び掛かった。

「返してよ!」

「返しなさいよ!」

「返せってば!」

そして、栞の作ったドレスは、取り巻く群衆の前で、またただのボロ切れとなって散ってしまったのだった。

「ちょっと君たち」

泣きべそをかく栞の前に立ちはだかったのは、ファッション王子のフランツだった。

「ぼくの彼女に乱暴しないでほしいね」

フランツは下着姿同然の栞を、自分の羽織っていた白いマントで包みこむとそう言い放った。

「なんですって」

今度は継母と姉たちが半べそをかく番だった。

「ぼくはここのところ、毎晩この人の夢ばかり見ていたんだ」

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

その後、栞は王子のお嫁さんになって幸せに暮らしたそうだ。

きっと捨てられそうになった、洋服たちが王子に夢を見させていたのだろう。

ベッドの中で王子は言った。

「服とは、醜いものを隠すためにあるんじゃない。君にはもう服なんていらない」

「ああ、フランツ」

栞は王子の首に腕を回す。「そんなことを言っても、わたしはあなたにたくさんいただいてしまったわ。“幸福”っていう服をね」

フランツは栞を抱き寄せて言った。

「ぼくは君に“全面降伏”さ」

2月10日 豚丼の日

ぼくにはふたつ年下の優未という恋人がいた。

しかし、優未ゆみとつき合って行くうちに、どうやらぼく以外にも男の影を認めざるを得なくなった。

問い詰めると、優未はあっさりとそれを認めた。でも彼女の気持ちはすでにぼくにあるので、その男とはきっぱり縁を切ると言ってくれたのだった。

それはちょうど一週間後のことだった。

優未が男と連れ立って、マンション3階の自室に入っていくところを目撃したのだ。

ぼくは落胆した。男が立ち去った後、優未と会って話をつけるつもりでマンションの下でしばらく時間をつぶすことにした。

ところが待てど暮らせど男の出てくる気配がない。

そのうち、数名の警察官が部屋の前に現れた。優未になにかあったのだろうか。嫌な予感がして、ぼくは非常階段を駆け上がった。

「中から鍵がかかっているな。井上さんいらっしゃいますか。S署の者です。ここを開けてください」

「あの・・・」

息をはずませながらぼくは声を掛けた。「合鍵ならぼく、持っていますけど」

頭の上からつま先まで、警察官たちがなめ回すようにぼくを見た。

「失礼ですがあなたは?」

「ここの住人の友人です」

「ずいぶん親しいのですね。合鍵まで持っていらっしゃるとは」少し皮肉には聞こえたが「ではお願いします」と道を開けた。

ぼくはいつものように鍵を開けて、ドアを押し開けた。

一番年長の警察官が言った。

「下がっていてください」

警察官5人が部屋になだれ込んだ。ぼくはその後に続いた。

優未は部屋の奥のソファーに座っていた。

胸にナイフが突き刺さったままの恰好で。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

「高宮。お前、おれにならしゃべるって言ったそうだな」

結局ぼくは“重要参考人”という名の容疑者として身柄を確保されてしまった。

理由は合鍵を持っていたことだけではない。凶器にぼくの指紋が検出されたこと。そしてなによりも、そこには誰の姿もなく、現場が密室状態だったからである。

S署の取調室は墨を水に溶かしたような、どんよりとした空気を漂わせていた。

ぼくは疲れた顔で舎人とねり刑事を見上げた。

スタンド式の白熱灯の光で、舞い立つほこりがスノー・ドームのように美しい。

「おかげさまで、でかい山の現場から抜け出して来たというわけだ。あと少しでホシを確保できるって時によ。同僚は大喜びだ」

刑事が身を乗り出してぼくを睨みつけた。「高宮、おまえの黙秘は終わりだ。さあ、話してもらおうか」

「その前に、腹が減りました」

ぼくは無機質な目を刑事に向けたまま言った。

時計は夜8時を回っていた。

「ちっ。図々しいやつだ。おい、『勝政』まだ営業しているか」

舎人刑事は部屋の隅で、タイプを打っていた警察官を顧みる。

「まだやってると思いますが」

「よし。かつ丼でいいか?」

「豚丼で」

「豚丼?」

舎人はいぶかしげに呟いた。「珍しいもの食うじゃないか。豚丼ね、おいそれひとつ頼んでくれ」

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

「刑事さん」

ぼくは刑事に微笑みかけていた。「ぼくは犯人じゃありませんよ」

「ふん。容疑者はだいたいそう言うんだよ。あの部屋はマンションの3階で、鍵が掛けられていた。完全な密室状態だったんだよ。窓も内側から施錠されていた。そして合鍵を持っていたのは管理人とおまえの二人だけだ」

「警察官がなだれ込んだあの時、刑事さんも後からいらっしゃいましたよね」

「ああ、ちょうど近くを通りかかったんでな。それがどうかしたのか」

そのとき刑事の背後の扉が開く。出前が届いた。

ぼくの前にどんぶりが置かれた。

「舎人さん。あなた、帯広出身でしょ」

ぼくは刑事の前にどんぶりを置きなおした。

「?」

「ぼくもなんですよ。イントネーションでなんとなくわかりました」

「それがどうした。どんぶりはおれのじゃない。さあ食べろよ。食べてすべて吐き出してしまえ」

「なんも(どういたしまして)。吐き出すのはぼくじゃない。あなたじゃないんですか、舎人刑事」

「なんだと!」

刑事は目を剥いた。

「あの時ぼくは分かったんです。部屋に入った時のあなたの匂い。あれは優未の香りだった」

「何が言いたい」

ぼくは刑事の前のどんぶりのふたを開けた。芳醇な香りが漂い出す。

その瞬間、舎人の記憶の奥底にあった、帯広の風景が広がり出したのだった。

「明治の末期、十勝の労働者は疲弊していました。農林水産省はなんとか労働者に栄養をつけてもらおうと、うなぎを食べさせようとしたんです。
でも当時うなぎは簡単に入手できなかった。だから帯広特産の豚ロースに、うなぎのたれをかけて食べさせた。それが豚丼のはじまりです」

舎人の指が震えだした。

「あなたは事件の後、部屋に入ってきたんじゃない。部屋のどこかに隠れていたんだ。

それで、さも通りかかったかのようなそぶりで捜査に合流した。ちがいますか」

「凶器にお前の指紋が残っていたのは」

「それはぼくが彼女に料理を作ってあげていたからです。彼女は料理ができませんでしたから。
それにぼくの職業は調べてあるんでしょ。香水の調香師ですよ。あの香りはぼくが彼女に作ったオリジナルの香水の香りだったのです。そしてあなたの身体には優未の移り香が残っていた」

「そ、そんなものは証拠でもなんでもない」

「いやもうひとつ。彼女には性癖があったんです。あなたの背中を見れば、彼女の爪跡がみつかるはずだ。そこに彼女のDNAもね。記録係さん、ちゃんとタイプしてもらえましたか。
あと防犯カメラに刑事さんと優未が一緒に歩いている録画がどこかに残っているはずです」

「いずい(まずい)な・・・もはやこれまでか」

刑事は首を垂れた。

「せっかく帯広の田舎から都会に出てきたってのにな」

刑事の目がどんぶりを見つめる。「高宮、この豚丼もらっていいのか」

「どうぞ」

ぼくはにっこりと笑った。

タイプをしている警察官に舎人が言った。

「おい、悪いが高宮の分も追加でたのんでやってくれないか」

「あ、ぼくはかつ丼で。もう同じものを取りあうのはごめんですから」

2月11日 わんこ蕎麦の日

「余命あと3ヶ月といったところですな。お気の毒ですが、半年もてばいいところです。仁田にったさん、だいじょうぶですか。気を確かに・・・」

佐吉さきちは医者の診断を、遠く山の彼方から聞こえてくる木霊こだまでも聞いているような気がした。

おれの命はあと少ししかないのか・・・暗い夜道を肩を落として家路につく。

余命宣告など、通常は直接本人にはしないところであろうが、身寄りのない佐吉だから自分自身で病状を把握するしかなかったのである。

「誰か助けて!」

その時である、女の悲鳴が聞こえてきたのだった。

「?」

佐吉は、声のする闇の方に歩いて行った。

そこには、数人の男が、若い女を組み伏せているところであった。

女はしきりに、首を左右に振って逃れようとしていた。しかし屈強な男たちに、両腕と肩を掴まれているから動きようがない。

佐吉はのそのそと中央の男の背後に近づくと、懐から匕首あいくちを取り出して、ひとりの男の左胸に突き刺したのだった。

それはまるでチーズに食い込むナイフのように、滑らかに深々と心臓を貫いていた。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

「犯人が逃亡するとしたなら、このうちのどこかってことです」

細身の三島刑事はホワイトボードの日本地図を指さしながら言った。

「仁田は犯行当時、担当医師に最期に蕎麦が食べたいといっていたそうです」

「どこの」

恰幅のいい田川警部が訊ねる。

「仁田に訊かれて医者が教えたのが、日本三大蕎麦だそうです。長野の“戸隠そば”、島根の“出雲そば”、岩手の“わんこそば”、の3つです」

「お前ならどの蕎麦を食べに行く?」

「どれも捨てがたいですね。しかし、仁田が死ぬ前に食べるとしたなら・・・岩手のわんこ蕎麦かと」

「なぜそう思う」

「想い出づくりです。近々『わんこそばオリンピック』が開催されます。10分間で世界中の大食いたちが競うそばの早食い大会です」

「やつは大食いなのか」

「かなりの」

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

佐吉は予選を勝ち抜いていった。

決勝当日はテレビの生放送も入っていた。

「どうします。つかまえますか」

三島刑事が会場の影で田川警部を顧みる。

「いや、あいつも残り少ない命だ。最後ぐらいは好きにさせてやるさ。殺人犯とは言っても、見ず知らずの女性を、自らの命を張って助けたわけだしな」

「ですよね。ここで逮捕なんかした日には、世間からどんなに叩かれるかわかったものじゃないですからね」

試合が始まった。

猛烈なスピードで一口で蕎麦を平らげる選手たちとは対照的に、佐吉は一杯食べるごとに変顔をしたり、ポーズを取ったりする。

テレビ局としても、ただ食べるだけの選手を追うよりも、一杯ごとにパフォーマンスを繰り返す佐吉にカメラが集中するのも無理はなかった。

試合はオーストラリアの巨漢が599杯を平らげ優勝した。後から追い上げた佐吉も500杯に到達したが優勝は逃してしまった。

食べ終えた佐吉はその場で倒れ、搬送された病院で息を引き取ったのだった。

その後、地方のテレビ局では佐吉の食べっぷりが評判になり、毎朝彼のパフォーマンスを放映することになったという。

“それでは次のコーナー、『今日のわんこ』です”

2月12日 レトルトカレーの日

「きみはレトルトカレーの弱点というのを知っているかね?」

大塚博士は助手で愛人の永谷陽子に訊いた。ここは大塚博士の研究室である。

「レトルトカレーの弱点ですかあ。そうですね、3分待つのが面倒くさいってことかな」

歳に似合わぬ笑窪をみせながら、かわいく答える陽子であった。

「なんだ、3分ぐらい待てなくてどうする。ウルトラマンじゃあるまいし」

「先生。古いです。ウルトラマンが3分しか地球にいれないなんて、昭和初期の人しか知りません」

「うほん。昭和中期までなら知っとるだろう。そうではなくて、レトルトカレーの弱点というのは“浸透圧”によって、具材がすべて均一の味になってしまうところにあるのだ」

「“シントウアツ”ってなんですか」

「レトルトは熱と圧力を加えて殺菌するだろう。同じ容器の中に味の薄い具材と味の濃い具材があると、お互い均一になろうとするのだ。
味の濃いのはそれほど影響がないが、味の薄い食材はモロに影響を受けることになる」

「あ、それで野菜の芯までカレー味になっているんですね。でもそれが好きって人もいると思いますけど」

「陽子くん、恋も同じだよ。いつも同じ異性とばかりつきあっていたら、結局相手の色に染まってしまう」

「だから先生、しょっちゅう浮気してるんだ」

「うほん。それはそれ。話を戻そう。そこでわたしは考えた。
人参は人参、イモはイモ、肉は肉。すべて別のレトルトに入れて製品化する。
箱の中にはカレー意外にレトルトがいくつも入っているのだよ。
そして、具材によって温める時間も変える。
どうだ、これで完璧なレトルトカレーが出来上がるぞ」

「さすがは先生です」

「すごい発明だろう。どうだい、ちょっと一緒に試作品を食べてみようじゃないか。
これで有力メーカーに製品化を提案しようかと思ってるんだ」

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

しばらくして・・・。

「どうでもいいけど先生」と陽子が言った。

「これだったら、最初から自分でカレー作った方が早いと思うんですけど」

2月13日 苗字制定記念日

「おい聞いたか。おれっちも、苗字をつけなくてはならねえんじゃってよ」

農夫の喜助きすけが隣の畑を耕していた文吉ぶんきちに声をかけた。

「え!なんでじゃ」文吉は目を丸くする。

1875年、明治政府は『平民苗字必称義務例』を発令した。

苗字呼称は、それまでは武士階級以上だけであったものが、農工商すべての平民にも苗字をつけることを義務付けたのである。

それまで、単に喜助とか文吉と呼んでいたものが、何某なにがし喜助、何某文吉となるのである。

「ぼっけえ(たいへん)参ったなこりゃあ」

文吉が、くわを振るう手を休めて腕組みをこしらえる。

「なんか、考えたんか」

喜助が尋ねる。

「いや、なーんも。途方に暮れとっただけじゃ。学のねえ俺たちが、いくら頭ひねったってもよぉ。いきなり苗字なんて思い浮かばんよ」

「そりゃそうだ。文吉、それじゃあここはやっぱり、寺の住職にお願げえするしかあんめえ」

「おお。それじゃ。それで行こう」

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

「なあ、珍念や」

「はい和尚さま」

「なにやら、表が騒がしいようじゃが」

「はい和尚さま。今日も苗字をいただきに、ぼっけえ大勢のみなさんが境内に集まっておりまする」

「まだ来るのか。ここ一週間、そればかりではないか。いささかもう疲れ果てたぞ。苗字など、田んぼだの、川だの、山だの、谷だの、適当につけとけばいいではないか」

「和尚さま、苗字なんぞはそんなものでいいのでございますか」

「いいとも。だれも文句を言わんし、意味とて分かっておらんだろうよ」

和尚としては今日こそ、越後屋の主人と碁の決着をつけに行くつもりだったのである。

「おお、そうじゃ」

和尚が手を打つ。「今日は珍念、お前に任せる」

「わたくしが・・・でございますか。それはいくらなんでも」

「できる。お前ならできる。よいか、わしは奥で終日写経をしていることにしなさい。
お前が名前を訊いて、奥に引っ込む。わしが苗字をつけたことにして、半紙にそれを書いて、なんと読むのか教えて渡せばよいのじゃ」

「それって、詐欺じゃ」

「詐欺ではない。お前とて、御仏にささげる身じゃ。まったく問題にならない。ではそういうことで、頼んだぞ」

そそくさと和尚は裏木戸から出て行ってしまった。

小坊主の珍念は頭をかかえてしまった。

「和尚さまはあんなことをおっしゃっていたが、わたしにそんな力などありゃせんのに・・・」

ふと足元を見ると、何やら古い本が積み重ねられている。和尚が時どき読んでいる本であった。

「『真神皇正総禄しんじんのうしょうとうろく』・・・あ、これは!」

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

数日後、岡山の役所から和尚に連絡が入った。

市原の農民たちが申請してきた苗字について、訊きたいことがあるというのである。

「珍念。おまえ先日、百姓たちにちゃんとした名前をつけたであろうな」

「もちろんでございます和尚さま。由緒正しい苗字でございます」

珍念はちらりとあの『真神皇正総禄』に目を向けた。

和尚がその視線を見逃すわけがない。

「・・・まさかその本にある苗字を使ったのではあるまいな」

「良くおわかりで」

和尚はめまいがして、手で眉間を覆った。

「いけなかったでしょうか」さすがに珍念も生きた心地がしない。

「いや悪くは・・・ないのだが・・・しかしその本は、公家の苗字集だぞ」

「へ」

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

公家というのは貴族のことである。

鎌倉時代であろうとも、貴族は貴族。

いくら自由に苗字を作って良いとはいえ、気軽に農民が名乗っていいというものではない。

まさか、坊主の首をはねるなどということにはならないとは思うが・・・

和尚と珍念は、高原地帯を牛馬のように重い足取りでゆっくり歩くのであった。

珍念はぐるりと農地を見渡す。

「広かねえ」そこには茫漠と畑が広がっているのであった。

沈痛な面持ちで和尚は役所の門をたたいた。脇には珍念もかしこまっている。

「和尚どの」

役人が神妙な顔をして和尚たちと対峙した。「先日百姓たちが、こぞって苗字の登録にこられたのですが・・・」

「はあ」

「それがですね。松本、中山、河野、石山まあここまでならなんとなく分かるのですが、
続いて大原、入江、桜井、藪、高倉、堀河、樋口、四条、岩倉、久世そして綾小路あやのこうじと・・・
これらすべて羽林家うりんけの苗字ですよね。
これは一体、いかがなさった?」

「え、いかがなさったと申されましても」

和尚は途方に暮れてしまった。

「申しあげます!」

その時珍念が素早く頭を机にすりつけた。

「なんしょん(なにしてるんだ)?」

とっさのことに役人はたじろいだ。

和尚は放心状態のまま呆けた顔で珍念を見つめた。

「百姓たちの願望でございます!」小坊主が叫んだ。

「願望?なんの」

「ご存じのとおり、井原高原の名産物は“ごんぼう(牛蒡)”にございます。
羽林家様の羽は“羽のごとく速く、そして”林は“林のごとく多い”と、常日頃から和尚が農民に説いていたのでございます。
それで農民たちの憧れ・・・つまり、いつかは羽林様のようになりたいという願望を抱きつつ、
ごんぼうを早く多く栽培してお国のためになりたいという健気な気持ちの現れなのでございますのじゃ」

「ほう、なるほどそういうことであったか」

役人は膝を打った。

和尚は大口を開けて珍念をただ見つめるしかなかった。

この話とは無関係であるが、現在、岡山県井原市芳井町には、実際に『明治ごんぼう村』がある。

2月14日 バレンタインデー

 どうしてバレンタインデーなどという日があるのだろう。

あんなのは、お菓子メーカーの陰謀だと言ってたやつがいた。

たしかに一理ある。海外では、チョコなんてだれも渡さないと聞いたことがある。

ひとつの業界のせいで、ぼくは毎年憂うつにならざるを得ないのだから、責任をとってもらいたいものだ。

雄一ゆういちは登校すると、不安と期待を胸に下駄箱を開けてみた。

「!」

入っている。入っているではないか。見なれぬ紙袋がそこにあるではないか。

「おはよう」親友の泰介たいすけが後ろから声をかけてきた。

「お、おはよう」雄一はとっさに下駄箱を閉めていた。

まずい、まずいぞこれは。泰介が見たら彼の劣等感に輪をかけてしまうに違いない。

「どうかしたのか?」泰介が雄一の顔を覗き込みながら下駄箱をひょいと開ける。

「!」

あった。そこに見知らぬリボンのついた小箱があるではないか。

「いや、なんか今日はいい天気だよな」泰介はすぐさま上履きを出して扉を閉じた。

まずい、これはまずいぞ。雄一が見たらショックで立ち直れなくなってしまうに違いない。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

昼休み。

雄一と泰介は、それぞれの場所で、それぞれの手紙を読んでいた。

「放課後、体育館の裏に来て」だと。

雄介は、ハート型のチョコを片手にニヤけていた。

「ふむふむ。放課後、音楽室で待っています」こりゃあまいったね。

泰介は鼻の下が伸びていないか気になってしかたがない。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

雄一が体育館の裏に行くと、ひとりの女子生徒が楠に持たれかかっていた。

別のクラスの明美あけみだった。校内なら、まあまあカワイイ部類に入る・・・ぐらいか。

「や、やあ。待たせたかな」

明美はセキセイインコのような目をしてキョトンとしている。

「なんで雄一が?」

音楽室に泰介が入って行くと、園子そのこがピアノを弾いていた。

「エリーゼのためにだね。君だろこれ」

泰介がポケットからリボンのついた箱を出して笑った。

「え、どうして泰介くんがそれ持ってるの?」

「ん?」

どうやら、ふたりしてチョコを入れる下駄箱を間違えたらしい。

白けたうえに憤慨した雄一と泰介は、偶然この後、校門でばったり出会ってしまった。

「あ、これお前のらしいぞ」

「え、なんだ、じゃこれお前のだ」

ふたりは、お互いのチョコレートを交換した。

そのとき背後から声がした。

「見いちゃった見いちゃった。あなた達、そういう関係だったのね」

銀縁メガネの大伴金代おおともかねよだった。

雄一と泰介は顔を見合わせた。

「ち・・・違うんだって」と雄一が両方の手の平を、車のワイパーのように左右に振る。

「いいのよ。そういうのって、世間的にはもう普通の事として受け止められてるんだから」

「いや、そうじゃなくて」と泰介がたしなめる。

「ここだけの話にしておくから心配しないで。どうぞ、お幸せに。じゃあね」

含み笑いをしながら金代は去って行ってしまった。

絶対ウソだ。

彼女は“校内放送局”と異名を持つオシャベリなのだ。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

「お前らのせいだからな」

雄一が小さな声で言い放つ。

雄一と泰介は、翌日、明美と園子のふたりを図書室に呼び出していた。

「今日から当分のあいだ、泰介と明美・・・」雄一がふたりを見る。

「雄一と園子は行動を共にすることにする」と泰介が続ける。

「いつまで?」園子が怪訝な顔をする。

「お互いに恋人同士という噂が立つまでだ。それまでは一緒に過ごす。部活帰りや休日もだ」

「しょうがないなあ。わかったわよう」

明美と園子はお互いに目を合わせてため息をついたのだった。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

その夜、明美と園子は長電話をしていた。

「もしもし、園子」

「やったね明美」

「大伴金代の行動パターン、ばっちり観察しておいた甲斐があったわ」

「そう。彼女、あの時間に毎日校門通って下校するんだから」

「すごい。『バレンタイン強制おつき合い作戦』大成功じゃん!」

2月15日 春一番名づけの日

 北風が南風に変わった日。

それは女性のだれもが“マリリン・モンロー”になれる日なのかもしれない。

おれは硬派な男である。だだし、女性に興味がないというわけではない。

純粋に“男道”を貫いているのだ。

他人はおれのことを“番長”などと呼ぶ。古風な呼び方だ。今どき番長もないだろうに。

ただ、ブレザー全盛期のご時世に、いまだ学ランを採用しているおれの通う学校にも責任の一端はあるだろう。

おれが街を歩くと、なぜか周囲の人達が道を開けてくれる。まるでモーゼの十戒のようだ。

「なあ、おれってそんなに怖いかな」

隣を歩く、泰三たいぞうに尋ねてみる。泰三はおれの友達だ。

「まあ、可愛くはないわな」

そこへ前方からスケバンの“おりゅう”が歩いてきた。スカートの裾が、地面に擦れそうなほどに長い。

長い髪の間から、こちらを睨みつけてくる。男が嫌いなのだろうか。

もちろんお竜とて、別にレズビアンなどではない。

おれは以前から彼女を心憎からずに思っていたのだった。

おれが目で笑いかけると、彼女はフンと視線を外した。

そこへ小猫がお竜の足もとにヨチヨチと絡みついてきた。お竜は両手で子猫を抱き抱えた。

お竜でもあんな優しい目をすることがあるんだ。おれは不思議な思いでお竜を眼で追っていた。

その時である。南からものすごい突風が吹いた。砂ぼこりが舞い、木立がざわざわと揺れた。

お竜のスカートの裾が、盛大にめくれ上がり、二本の白い脚があらわになる。

おれは反射的にしゃがみ込んで、お竜のスカートに抱きついていた。お竜の脚を、おれ以外の男達の目に触れさせるわけにはいかない!

風がおさまると、猫を抱いたお竜の目とおれの目がかち合ってしまった。

「あ、これは別に・・・お竜さん。お、おれと・・・その・・・つき合ってくれたりしないか」

キッとお竜はおれをにらみつけて形のいい唇を歪めた。

「いいけど・・・。そのかわり、もう一度ギュッと抱きしめてくれよ。脚の方じゃなくてさ・・・」

2月16日 天気図の日

「そんな馬鹿な・・・」

気象予報士のわたしはその日、自分の目を疑っていた。

どう考えても、その天気図には不備があった。いや、不備があるとしか思えなかったのである。

天気図には、“等圧線”という線が張り巡らされている。この線は4ヘクトパスカルごとにひかれているのだ。

そして、等圧線の間隔が狭ければ狭いほど風速が強いということになるのだが・・・。

それにしても今日の天気図の等圧線は異常であった。線と線の間隔がほとんどないに等しかったのである。

これは異常気象としか思われない。

わたしはフラフラする頭を抱えて報道局に電話をかけた。

「大変なことになった。いいですか、すぐに屋外での行動を禁止させてください。
え、風速ですか。猛烈な風は優に85メートルを超えてくるでしょう。もはや一刻の猶予もありません」

わたしは受話器を握りしめて言った。「電柱は倒れ、家屋は倒壊、トラックは横転、自家用車は宙に舞うし、電車も脱線します!」

そこへ家内が外から戻ってきた。

「こんな時に、どこへ行っていたんだ!」

わたしはつい妻に声を荒げてしまった。

けげんな顔をして妻はテーブルの上に小さな箱を置いた。

「どこへってあなた」

あきれた顔で妻が言った。「ゆうべ酔っぱらって帰ってきたかと思ったら、天気図の上に夕飯の“イカ墨パスタ”をぶちまけちゃったでしょう。一本一本剥がすの大変だったんですからね」

妻がコップに水を浸してテーブルの箱と一緒にわたしに差し出した。

「ハイ、二日酔いの薬。・・・だいじょうぶ?あなた顔色が悪いわよ」

2月17日 天使のささやきの日

 気がついたらぼくの左肩には天使が乗っていた。

天使はぼくが迷っているとき必ず正しい答えを教えてくれた。

「ありがとう。いつも助かるよ」

ぼくがそう言うと、天使はぼくを見てただニンマリと笑うのだった。

ある日ぼくは二人の女性を愛してしまった。どちらがどのぐらい好きかっていうのではなく、どちらも同じぐらいに愛してしまったのだから始末に悪い。

タイプとしては、正反対と言えるだろう。

A子はおしとやかでおとなしく、清楚な感じの女性であるが、B美は明るくて活発、太陽のように暖かみのある女性だった。

こうなったら天使に判断を委ねるしかあるまい。

ぼくは天使に訊ねた。「ねえ、ぼくはどっちの女性を伴侶に選べばいいんだろう」

天使はしばらく考えていたが首を横に振った。それはどちらもやめろという意味だった。

「ちょっと、それはないんじゃないか。A子もB美もすごく良い娘なんだぜ」

天使はちょっと小首をかしげ、あれにしろと小さく指をさした。

天使の指の先には、C江がいた。ひっそりと道端に咲いている花のように、どことなく寂しい感じがする女性であった。

そういえば彼女は、ぼくに対してだけニコリと笑う娘だったのだ。

「まさか」

ぼくがそう言うと、肩の天使は姿を消してしまっていた。「あれ?」

結局ぼくはC江と結婚することになった。そして今では別の天使がひとりいる。

「ねえパパ。ママのこと愛してる」天使が耳元でささやく「ママとあたしとどっちが好きなの」

2月18日 エアメールの日

 エアメールが届いた。

今どき、電子メールのこの時代にエアメールとは・・・。

“こんにちは。

わたし、ハネムーンに来ています。

それで、あなたが双子の弟と入れ替わっていることに気がついてしまいました。

どうも様子がおかしいと思ったの。

あなたと最も違うところはね、新婚初夜です。弟さんはこの上なく優しかったわ。

すべての愛でわたしを満たしてくれたのです。

もうあなたには戻れません。

さようなら。    詢子じゅんこ

ぼくは返信を書いた。

“拝啓

お手紙拝見させていただきました。

じつは詢子さんの推理にはひとつだけ誤りがあります(笑い)。

日本でつき合っていらしたのが、双子の兄の方だとお思いでしょうが、実は弟のぼくだったのです。

兄は人づきあいが苦手で、とにかくあなたに嫌われたくなくて、弟のぼくがデートで代役を務めていたというのが真相です。

ですから、新婚旅行にご一緒しているのは紛れもなくぼくの兄です。

この度は兄のことを気に入っていただき、誠にありがとうございます。末永くお幸せに。

義弟より。 敬具”

2月19日 天地の日

 “神は初めに、天と地を創造された”・・・って、ぼくは神なんかじゃないんだけどな。

そうつぶやきながらユピは“太陽系宇宙水槽キット”をのぞき込んだ。

「あーあ、またはじめからやり直しだよ。なんでこう人間てやつは、自分で自分の住処を破壊したがるのかな」

そこへ母のピータがお菓子をもって、部屋に入ってきた。

「ユピ。夏休みの宿題は終わったの?」

「母さん。この『人間観察記』で終わりなんだけど、またこいつらケンカしやがったのさ」

「あら困ったわねえ。いつになったら成長するのかしら」

母と話しているといっても、お互いに言葉を発しているわけではない。ぼくらは心の中で思ったことを念じて伝えるだけなのだ。

「なにか間違っているのかな。ちょっと見てて」

太陽系宇宙水槽キットというこの教材は、標準で宇宙と地球が配置されている。

まずは光源を当て、昼と夜を作った。

次に空と大地を分けて、地続きだと生物が育たないので海を配することにする。

すると大地に植物が生えはじめた。

先ほどの光源だけだと、生物が夜は真っ暗で活動ができない。そこで月と星を作る。

月は地球を観察する便宜上、表面だけを地球に観せて周るように調整する。これが結構難しい。

そうこうしているうちに、海には魚が泳ぎ出し、空に鳥たちが飛ぶようになる。

「あら、すてきじゃない」

母はこういう自然の風景が大好きなのである。

魚と鳥が生育すると、今度は大地に猛獣と家畜が生まれる。

これで準備は完了だ。

最後に“人間”という形をした生物に、エネルギーを注入して出来上がりである。

「そろそろ、お茶にしましょう。ユピはどうして毎回観察に失敗しちゃうの?」

「こいつらはね、どうしても最後に核を使いたがるんだよ。そのおかげで地軸が大幅にずれるんだ。南は北に、東は西にって具合にね」

「仲が良くないのね」

「そうなんだ。だからお互いコミュニケーションが下手だから、変に意思疎通を図らないように言葉も変えてるんだよ。
それでも最後には核兵器をつかって滅亡して、せっかくの地球がまっさらな状態になっちゃうんだ」

「注入したエネルギーはどうなるの。また悪さをした星から提供をしてもらうとか?」

「身体から抜け出したエネルギーは、回収して洗えば使用可能なんだよ。そうすると今までの記憶はなくなるから、最初から実験を始められるってわけ」

「ふうん、観察日記をつけるのも大変なのね」

「まあね。人間にはいつも苦労させられるよ」

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

「パパ。またキットの中のユピって子がしくじったみたいよ」と、ララがぼやく。

「どれどれ」

銀河系宇宙水槽セット”を父親のロモがのぞきこむ。

「ああ、この太陽系セットの“人間”という生物を更生させるのは至難の業なんだよな。
このユピっていう実験体は根気がいる作業をやってるんだね。これが成功したらララの観察日記も終わるのにな」

水槽から顔を上げるとロモは言った。「知ってたかい。人間の家族のことを最近世間では“核家族化が進んでいる”って言うんだそうだ」

「それ観察日記に書いとこう。人類は核家族化が進んでいます・・・と」

ララが顔を上げる。「ねえパパ。この核の使い方間違ってない?」

「いや」

ロモは苦笑いする。「使い方を間違っているのは人間の方だよ」

2月20日 旅券(パスポート)の日

「ね、いいだろ」

ぼくは律子りつこの肩にやさしく手を置いた。

「お客さま。パスポートはお持ちですか?」

「パスポート?」

「そ、婚姻届」

「あ、今日は忙しくて役所へ行けなかったんだけれど・・・」

「それでは、またのお来しをお待ちしております」

「つれないなぁ」ぼくは律子の肩からら手を離した。

ぼくの彼女は入国管理官をやっている。

そしてぼくは、彼女の勤務する空港の入国警備官として働いているのだ。

律子の勤務が早朝の時には、前日空港から近いぼくのマンションに泊まりにくることがよくある。

ぼくらはつき合いだして3年目になるが、律子は身持ちが堅くてキスまでしか許してくれないのだ。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

その日は朝から入国ラッシュであった。

彼女はもともと笑顔の可愛い女性なのだが、入国審査のときには務めて無表情を貫き通す。

入国管理官というのは毅然とした態度が大事なのだと彼女は言う。

入国管理官は、海外からの犯罪者やテロリストの入国を水際で阻止する役目を担う重要な仕事なのである。

テキパキと入国処理をしていた律子が、ハタと手を停めた。何か違和感を感じたのだ。

なんだろうこの感じ・・・。律子の前にはプロレスラーのような大男の外国人がそっぽを向いて立っている。

指紋認証と顔認証は問題なし。でも・・・パスポートの持った感じがほんの少し違うような気がした。

偽造パスポート?顕微鏡検査が必要かもしれない。

律子は事務的に屈強な外国人に別室に案内することを告げた。

その時、透明な防護壁の隙間から男の太い手が伸びてきて、律子の首を捉えていた。

飛行機に搭乗してきたのだから、凶器は持っていないはず。でもこのトラクターのタイヤのような二の腕に首が巻き付いたときには、一瞬息が詰まる思いだった。

背後に回った男はささやいた。

「静かにしろ。さもないとあんたの首が鉛筆みたいにへし折れることになるぞ」

そのとき異変に気づいたぼくは、音もなく律子たちの背後に近づいた。そして、暴漢者の手首を左手でつかむと、右手で男の指をねじり上げた。

男が悲鳴を上げる隙も与えず、ぼくはその場で大男を床に組み伏せた。

「痛てて、お前は誰だ!」

「通りすがりのフィアンセですが」

律子は今まで見せたことのない笑顔を作って、凍りついた順番待ちのお客さまに声を掛けた。

「失礼いたしました。それでは入国審査を再開いたします」

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

「はい、これ」

ぼくは律子にパスポートを渡した。「あとは入国許可証がいつ手に入るかなんだけど・・・」

律子はぼくの首に手を回して微笑んだ。

「たった今よ。ご搭乗お待ちしておりました」

2月21日 夏目漱石の日

「それで先生はどちらに?」

「ロンドンに旅立たれましたな」

はかまの裾をたくし上げた書生がそう言うと、雑巾を片手に奥に引っ込んでしまった。

三四郎は大学を卒業すると、新聞社に入社した。所属は文化部である。

主に新聞小説の原稿の受け渡し係をしていた。担当は、あの扱いづらい夏目漱石であった。

美禰子みねことの別れから、三四郎にとっては初めての長旅であった。

三四郎はロンドンに到着すると、真っ先に漱石の下宿するアパートを訪ねた。

するとそのアパートの入り口には、黄色いテープで境界線が引かれており、容易に立ち入ることができないようになっていた。

「何があったのですか?」

三四郎がなれない英語で近隣の野次馬に尋ねると、なにやら事件があったそうだ。

現場は四階の部屋で、亡くなったのは中年の男だということだ。

明らかに殺人に見えるのに、窓は開いていたが、部屋の中から鍵が掛けられていたという。

手すりどころか雨どいも、足場も無いので、窓から隣室に飛び移るとか、逃げ出すことなどまず不可能である。

四階からではパラシュートがあっても開くまい。まさに密室殺人である。

「!」

漱石先生の部屋も確か四階のはず。まさか先生が・・・。

そこへ黒い警帽をかぶった警官の一人が階段を降りてきた。三四郎はすかさず新聞社の身分証明書をみせて詳細を訊いてみた。

亡くなったのは漱石ではなかった。ヘンリーという名の英国人だという。

「君は夏目金之助氏を知っているのか?」

「もちろんです」

金之助は漱石の本名である。

「彼は密室トリックを証明するため、『倫敦塔ろんどんとう』に向かったよ」

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

ロンドン塔は“塔”と書いてはあるが、実際には古城であった。

三四郎は城の虎口こぐちで憲兵に止められた。

「夏目に言われた。小川三四郎という者が訪ねてきたら、よく来たなと言ってくれ。それからの前で待つようにと」

なんと、夏目漱石はロンドンでも既に名士になっていたのであった。

ロンドンでの生活は外交的な森鴎外とは明暗をわけたが、密かに熱狂的なファンがいるようだ。

三四郎は仕方なく、平らなところの草枕で横になり、道びとを眺めたり、時どき堀に小石を“ぼっちゃん”と投げたりして所在なくすごすしかなかった。

しばらくして、漱石が現れた。

「なんだ。原稿をもらいに、ロンドンまで追いかけて来たのかね」

三四郎は苦笑しながら頭をかいた。

「先生。ご無事でなによりです」

少しげっそりした漱石の姿をみて安心した。

「お痩せになりましたか」

「うん。英国こっちの食事が合わなくてね」

「そうですか、あとで水蜜桃を食べましょう。日本から持参しました」

「それはありがたい」

「これからどちらへ」

「うん、アパートに戻るのさ。実はここの暮らしになじめなくて、一歩も外を歩いていなかったからな」

「警察がトリックがどうとか言ってましたが」

「うむ、アパートで話そう」

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

「ヘンリーさんはわたしの向かいの部屋に住んでいました。他人に殺害されるような人ではありません」

一夜明け、漱石はロンドン警視庁の警部の前に立っていた。

(私)は、昨日ロンドン塔へ赴き、その証拠を見つけてきたのです」

「本当ですか夏目先生。警察としても、不可解な事件で困っておったところなのです」

「地方で坑夫として働いていたヘンリーさんは、閉坑後ロンドンに出稼ぎに来ていた肉体労働者だったのです。
しかし先日、働いていた製氷工場を解雇されてしまったのだとか。
悲嘆にくれた彼は、部屋に鍵を掛け、ナイフ状の物で自身の心臓を突ら抜いたのです」

「それなら部屋に凶器が残っているはずですが」

「そこがトリックです。ロンドン塔には“ワタリガラス”が放し飼いにされているのをご存じでしょう」

「ああ。あの大型のカラスのことですな」

「彼は事件の当日、ロンドン塔のワタリガラスを一羽持ち帰り、氷で作ったナイフをカラスの足に括りつけてから胸に突き刺したのです。
カラスがロンドン塔に舞い戻った頃には氷が溶けて、足に紐をつけたカラスが一羽いるだけです」

「なぜそんなことを」

「家族に保険金を残すためでしょうな」

三四郎はこころから漱石の明晰な推理に感服してしまった。

そんなある日、漱石は三四郎に何もいわずに日本に帰国してしまったのである。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

三四郎のイギリスにおける、新聞社から請け負った取材期間は九月の彼岸過迄ひがんすぎまでであった。

しかし三四郎は、漱石に会いたい一心で、手早く仕事を済ませたのである。

それでも、日本に帰国したときにはすでに五月で、虞美人草ぐびじんそう(ひなげし)が唐傘のような深紅の花を咲かせていた。

漱石は修善寺で闘病生活をしているという。

三四郎が漱石に会いに行くと、鏡子夫人から一通の短い手紙を渡された。

吾輩はねこんでいる

2月22日 猫の日

 その猫を飼ったのは偶然だった。

千里ちさとが上京してはじめて買い物に出かけたときのことである。

買い物帰りの家路についたのだが、右も左もわからない方向音痴の田舎者である。完全に自分の位置を見失ってしまった。

「そう。こういう時こそ、GPS機能よね」千里は携帯電話で電子地図を調べ始めた。

歩き始めると、左足になにか違和感がある。ふと見下ろしてみると、一匹の白い小猫がしがみついているではないか。

「あらやだ。あなたどこの子?」

「ニャン」というだけで、猫は決してちさとの足を離そうとしない。

接着剤で貼りついているかのようだ。仕方がないからそのまま猫を家に連れて帰って一緒に住むことになった。

名前は「ニャン」と名づけた。安直な名前である。

千里は頻繁に金縛りに合う体質のようだ。ニャンから見れば、千里が憑依ひょうい体質であることは一目瞭然だった。それから毎晩、猫は千里の悪夢と闘うことになった。

ある時は、すごい形相で髪を振り乱した白装束の女。またある時にはタヌキのような化け物が千里を襲いにくるのである。

その度にニャンは、背中の毛を逆立て、鋭い爪と牙で魑魅魍魎ちみもうりょうに立ち向かうのであった。

ニャンが日増しにボロ切れのようになっていくのを見ながら。

「あなた、どうしたの。だいじょうぶ」と千里は暢気に声をかけるのであった。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

月日が流れ、千里はある男性と恋におちた。

ニャンはその男性を一目見て、安堵した。

「これで安心にゃ。これからはあんたが千里を守る番にゃ」

二人が結婚すると、ニャンは姿を消した。

「さよならにゃ。さよならにゃ」

猫はだれも知らない世界へ旅立って行ったのだった。

2月23日 富士山の日

富士山の標高は3,776m。日本一高い山である。

日本最古の和歌集『万葉集』には

田子の浦ゆうち出てみれば真白にぞ 富士の高嶺に雪は降りける山部赤人やまべあきひと)」

という歌がある。

これは

「舟で田子の浦を通過して広大な海に漕ぎ出してみたら、富士山の頂上に真っ白な雪が降っていたんだよ」

という意味の歌である。

が、これに対して作者は不明であるが、反歌で

燃ゆる火を雪で消し、降る雪を火で消しつつ・・・」という歌がある。

この歌の意味は、富士山が噴火した炎を降り注ぐ雪が消し、今度はその降りそそぐ雪を噴火の炎が消すという富士山の噴火活動を歌ったものと言われている。

さらに西行が『新古今和歌集』で

風になびく富士の煙の空に消えてゆくへもしらぬ我が心かな

と、富士山から煙がたなびいている風景を歌っているのだ。

これらのことからも、富士山がつい最近まで火山活動をしていたのは明らかだ。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

横浜在住の竹下小夜たけしたさよは、幼いころにぼくのおじいさんに孤児として拾われた。

ぼくは両親を早くに亡くしていた。そんな境遇下、ぼくは兄として泣き虫の妹をいつも守ってきたのである。

小夜は大人になるにつれて、日増しに美しい娘へと成長していった。

そんな小夜の気を引こうとして、街灯に群がる虫のごとく近隣から良からぬ男どもが集まってきた。

その度にぼくは彼らを蹴散らす毎日だった。

「お兄ちゃん。乱暴はいけないわ」

「なにが“小夜ちゃんの親衛隊”だ。そんな甘い顔ができるか。見ろあのスケベ根性丸出しの男たちの顔を」

そんなある日、大地が歪んで激しく揺れ始めた。

「お兄ちゃん!」

小夜が腕にしがみついてきた。

南海トラフ大地震の始まりである。一斉にテレビが富士山の火山活動を報道し始めた。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

関東ローム層は12万年前に富士山の火山灰が堆積して出来た土地である。

今、再度それが始まろうとしていた。富士山から立ち昇った黒い灰が、まるで弾幕でもばら撒くかように関東に向かって降り注ぎはじめていたのである。

首都滅亡”そんな言葉がささやかれるようになった。

「おじいさん、おばあさん、それにお兄ちゃん。長い間ありがとうございました。わたし、行かなくては・・・」

「行くって、どこへじゃ」

おじいさんがうろたえ、おばあさんはおろおろしている。

小夜はテレビに映る煙の上がった富士山を指さした。

「なぜだよ。そんなの無理に決まってるだろう」

ぼくは訳がわからず妹を制止しようとした。

「だめなの。わたしが帰らないと収まらないのよ」

「小夜お前は・・・」

「本当の名前はNARA。遠い星から来たの。日本を救えるのはわたしだけ。お願い。お兄ちゃん協力して。
おじいさん、おばあさん長いあいだありがとうございました」

そういうと小夜は、床に手をついて深々と頭を下げた。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

ぼくは四輪駆動車で富士山の道路が切れるところまで登って行った。

途中警察の封鎖に阻まれたが、小夜の親衛隊が身を挺してぼくと小夜のために隙間をこじ開けてくれたのである。

「みなさん。ありがとう」小夜は大きく手を振った。

「なあに、姫のためならこれしきのこと」小夜の親衛隊を名乗る男達が白い歯を見せて笑った。

それを駆けつけた警察隊が雪崩を打って抑えつけようとしていた。

「あいつらを少し見直したよ」

ぼくは親衛隊と警察官の揉み合いを見ながら言った。「本当に小夜のことが好きだったんだな」

火山灰が降り注ぐ中、ぼくと小夜は頂上へと登って行った。

途中落石がすぐ脇をカミナリのような音を轟かせて落ちて行った。

小夜とぼくはとうとう頂上にたどりついた。

すると火口から音もなく光る物体があがって来た。直径50メートルはあるだろうか。

「お兄ちゃん、ありがとう。さようなら」

小夜は光の中に消えて行った。

円盤型の光はさらに上昇すると、光線を富士山の火口めがけて放射した。

その瞬間、火山活動で揺れ動いていた地盤が嘘のように止まった。あたりに静寂が戻っていた。

それを確認し終えたかのように、静止していた光る物体がみるみる上昇していく。

ぼくはありったけの大声を上げた。

「小夜お!NARAあ!」

2月24日 クロスカントリーの日

「これで青春も終わりね」

うなだれるあやの白いうなじが痛々しい。

綾はぼくにとって憧れの女性だ。

ぼくは彼女の細い肩を抱きかかえた。励まそうとしたのだ。そう、ただ単に励まそうとしただけだったのだ。

クロスカントリーとは、野山を駆け巡る長距離走のことである。

その種類は多種多様に分かれており、陸上競技のほかに雪上で行われるクロスカントリースキーや、自転車を使うクロスカントリーラリーなどがある。

綾は大学のクロスカントリー部に所属している。数少ない男女混合リレーの選手であった。

男子と女子それぞれ2名ずつの合計4名で2kmずつ8kmを走る競技である。

各地の予選を勝ち抜き、今日が本戦だった。

ところが、ぼくがバイトを抜けだして駆けつけたとき、そこには不穏な空気が漂っていた。

なんとスタート1時間前に、アンカーを務めるはずだった選手が足をくじいてしまったのだ。全治1週間の致命的な捻挫だった。

「補欠選手モイナイシ、棄権スルシカナイネ」

イタリア人のコーチ、カルロスが天を仰いだ。異様に毛深い中年男であった。しかも頭が禿げ上がっている。

悄然とする綾をなだめながら、ぼくはとんでもないことを口走ってしまった。

「あの、ぼく代わりに出ましょうか」

全員がぼくに視線を向けた。

「走レルノカ?」

カルロスが目を見開いて尋ねる。

「いや、普通には・・・大学生活最後の大会でしょ。参加するのに意義がある・・・なんて」

「ヨシ、掛ケアッテクル」

カルロスが事務局のテントに走って行く。

「だいじょうぶなの。無理しなくていいよ」

綾はぼくを気遣ってくれた。

「なんとかなるって。順位さえ気にしなければ」

「ありがとう」

そこへカルロスが戻ってきた。

「OK!ダイジョウブ。デモ走ル順番ハ変更デキナイソウデス」

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

スタートが切られた。

1番手は男子の横川選手だ。序盤、団子状態の中から抜け出したものの、途中から追い上げられ、10組中の8位まで順位が下がってしまった。

2番手の女子は吉川選手だ。彼女は俊足を活かし、徐々に順位を上げて行き、3番手の綾にバトンを渡したときには6位に順位が上がっていた。

綾は呼吸を整えながら、下り坂と上り坂の緩急をうまく使い、5位だった選手を追い抜くと、その差をさらに広げていった。

そして4位の選手の背中が見えたところで、ぼくにバトンタッチした。

「お願い。あの選手を抜かして。入賞できたらキスしてあげる!」

「え、本当?」

ぼくはロケットばりにスタートダッシュをかけて爆走を開始した。

両膝に手を置き、肩で息をしながら、綾がぼくの後ろ姿を見送った。

「・・・バカなの」

韋駄天いだてんとはこのことだ。両足が目にも見えないほど回転している。

4位の選手が驚いてぼくを見送る。「おい、短距離走かよ」

ぼくのスピードは1kmを過ぎても衰えなかった。

「すごい!」沿道の応援客が騒いでいるのがわかる。

それはそうだ。

ぼくのバイトは富士山の荷物運びなのだ。

酸素が希薄の中を、自分の何倍もある重量物を頂上の山小屋へ毎日のように運んでいるのである。

2位の選手は残り500m地点で抜き去った。

そして、いよいよゴールの直前、砂埃を上げて迫ってくるぼくの迫力にビビったのか、1位を走っていた選手が後ろを振り返る。その拍子になんと足がもつれて転倒してしまった。

(キス、キス、綾のキッス!)

ついにぼくは1位でゴールのテープを切った。

そして、祝福のキスの嵐。でもそれは綾ではなかった。コーチのカルロスのキスだったのだ。

その夜からぼくは悪夢にうなされるようになってしまった。

あのコーチは“クロカン”などではなく、ぼくからしてみれば“グロ漢”以外の何者でもなかった。

2月25日 ひざ関節の日

幸次郎こうじろう!見てみろよ。これが夢にも出てきたカリブ海の青い海だ」

「すごいな太市たいち、紺碧の空だなあ!」

ふたりは今、大西洋に大型クルーザーを浮かべ、勝利の美風を満喫していた。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

「両ひざとも複雑骨折ですな」

医師は試合後に担ぎ込まれた太市に告げた。

「治りますよね」

横からセコンドで太市の親友でもある幸次郎が医師を問いただす。

「歩けるようにはなるでしょうが・・・」

「なるでしょうが?」

「今までのように、格闘技を続けるのはさすがに無理かと」

目の前が墨をぶちまけたように真っ暗になった。ベッドでは太市が肩を揺らして泣き崩れていた。

その数か月後、サンダー太市は、奇跡的にリングの上に立っていた。

太市の膝には、鋼鉄の人工膝関節が入っていた。『炎のレスラー・サンダー太市』の復活である。

「もはや再起不能といわれた稲妻太市が帰ってまいりました!」

アナウンサーも興奮して叫んでいる。

しかし、今日は相手が悪かった。人間ピラミッドの異名を持つ、3mの巨体レスラーだ。

コーナーポストから飛び上がった巨体は、体勢を崩した太市にその巨体でモロに押しつぶしにかかってきた。

太市の膝が相手の脇腹に入ったのと、太市の両ひじで枯れ木が折れたような音が同時に響いた。厭な音だった。

太市は試合に勝った。しかし、今度は両肘の骨が粉砕されてしまったのだ。

その数か月後、またもやサンダー太市は不死鳥のごとくリングに蘇って来た。

すでに両膝と両肘の関節が鋼鉄と化していて、あたかもサイボーグのようであった。

もはやリングネームはサンダーよりもサイボーグの方がいいのではないかと、ネットで騒がれたぐらいである。

太市はその年の日本チャンピオンに輝いた。

そして目指すは年明け、ニューヨークで行われる世界選手権大会であった。

「無理はするなよ」

セコンドの幸次郎がたしなめたのもむなしく、今度は練習スパーリングで頸椎を骨折してしまった。

場所がアメリカだったのが幸いした。スポーツ医学の名医であるドクター・ガンジョーに手術してもらうことができたのだ。

その結果、今度は首に鋼鉄製の関節を手に入れた。

試合は熾烈を極めたが、なにしろ太市の身体はロボット兵器みたいなものである。

太市に技を決めることができるレスラーは皆無であった。

それどころか、相手もしまいにはありとあらゆる反則技で攻め立てるしかなく、試合には負けても、判定で太市が勝利してしまうのである。

サンダー太市はとうとう世界チャンピオンの座に輝いた。

「やったぞ幸次郎!」

「おめでとう!」リングで幸次郎が太市の腕を取り、高々と天に突き上げた。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

ふたりは大型クルーザーの船上にいた。

ニューヨーク経由で行けるバカンスを楽しんでいたのである。

ギラギラ輝く太陽の下で、リキュールを飲んでいた太市が起き上がる。

「暑いな。ちょっと泳いでくる」

「太市、ちょっと待て・・・」

遅かった。

太市は舟の舳先から、大きく放物線を描いて真っ青な海に飛び込んだ。

太市が入水した辺りから、真珠のような丸い小さな泡が無数に立ち昇っていた。

しかし、その雄姿は二度と浮かび上がってくることはなかった。

太市は自身の身体に装着されている鋼鉄の重さを、すっかり忘れていたのである。

「船長!ここの水深は何メートルだ」幸次郎が叫ぶ。

「ここは海溝だ。8千メートルはあるだろう」

船長はパイプをくわえて、肩を竦めてお手上げのポーズを取るしかなかった。

「今ごろサンダーは、ポセイドンと闘っているんじゃないかな」

2月26日 包むの日

 もしも命と引き換えに、なにかひとつ包むことができるとしたならば、あなただったら何を包みますか。

「ねえママ」

公園である。4歳になる娘が母親を見上げる。

「なあに、瑠璃るり

「キャンディとかキャラメルは、どうして紙につつんであるの?」

瑠璃の小さな掌に、黄色いキャンディがひとつ乗っている。

「そうねえ、それは包んでいないと、ベタベタになっちゃうからじゃないかしら」

「ふうん。それじゃあの人たちも包まないといけないんじゃない」

瑠璃が指をさした先のベンチには、若いカップルがイチャついていた。

「こら瑠璃、指をさしちゃだめよ。あの人たちは放っておいても、時間が経てば“カサカサ”に乾いてしまうからいいのよ」

「ふうん、そうなんだ」

「そろそろ帰りましょう。風が冷たくなってきたわ」

母は瑠璃を乗せた車椅子を押して病室へもどって行った。

瑠璃は生まれながらにして、何やら難しい名前の病気に侵されていた。その短い人生の灯は、今にも消えようとしていた。

仕事が引けて、いつものように父親も病室に駆けつけてくる。妻の顔色を見て、ほっと一息つくのであった。

「元気にしていたかい」父親はやさしく娘に声をかけた。

「パパおかえりなさい。今日瑠璃ね、夢で神さまに会ったんだ」

「へえ。すごいじゃないか。何かお願い事とかしたのかい」

「うん。神さまはね、瑠璃の命と引き換えに、なにか包んであげようって言ってくれたの」

こういう時に、父は思わず涙が出そうになるのだが、いつも無理やりに笑顔をつくるのである。

「それで瑠璃。なにを包んでもらうんだい」

「あのね、このあいだご本を読んで思ったの」

「うんうん」

「お空に穴が開いちゃっているでしょ。だから地球を包んでくださいって」

背後で片付けをしていた母親が、小さな背中を震わせて泣いているのだった。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

瑠璃は天国へ旅立ってしまった。

その後、地球のオゾン層が修復されたというニュースが流れるということはなかった。

それでも残された父と母は、瑠璃の両手いっぱいの愛で包まれている気分だった。

2月27日 絆・新選組の日

坂本龍馬さかもとりょうま、覚悟!」

ここは近衛屋の二階である。十津川郷士とつかわごうしを名乗る刺客たちが勢いよく襖を開け放った。

ぞくの足元には、たった今斬られたのであろう、従僕の藤吉が倒れていた。

「何者だ!」まずは同席していた陸援隊の中岡慎太郎なかおかしんたろうが斬られた。

「?」龍馬と呼ばれた男は、杯を傾けたまま虚ろな眼差しを賊にむけるのだった。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

りょうさん。悪いことは言わない。しばらく池田屋には近づかないほうがいい」

総司そうじ。おんし、そがなん言うてだいじょうぶか」

沖田総司は壁を一枚隔てて、背中越しに龍馬と話をしていた。

「わたしは坂本龍馬という男に惚れています。あなただけは、斬りたくない。生き残ってもらいたい」

「池田屋に討ち入るがか」

「そうです。浪人狩りをします。ですが、龍さんが言うように薩長が手を組むとなれば、幕府も最早もはやうかうかしていられませんね」

その時、尊王攘夷の志士たちが沖田総司に近づいて来ていた。

「しっ。龍さん、見ていてください」

龍馬は壁の穴に目をつけた。

そして、懐から銃身の長いピストルをするりと出すと、いざという時には沖田の援護をしようと構えたのだった。

沖田総司は刀を抜くと、低く平正眼の構えを取った。

賊の3人が刀を振りかざした次の瞬間、沖田は大きく一歩踏み出すと、その足が着地するよりも速く、稲妻のような速さで3本突きを繰り出していた。

沖田の右足が着地したのと、3人の賊が倒れたのがほぼ同時であった。

龍馬は「ひゅう」と口笛を吹いた。

「いまのが巷でいう新選組一番隊組長、沖田総司の『三段突き』かね」

沖田は刀を収めた。「北辰一刀流、免許皆伝の坂本龍馬なら簡単にできますよ」

龍馬は笑ってこたえた。

「わしにはできんぜよ」

「・・・龍さんに折り入って相談があります」

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

1864年7月8日の夜半、京都三条の池田屋に潜伏していた攘夷派志士の一団に対し、近藤勇を隊長とする京都治安組織の新選組が踏み込んだ。

その中には沖田総司も主力として動員されていた。

狭い旅籠での戦闘は、熾烈を極めた。沖田総司の疾風のような太刀裁きも、狭い旅籠の中では、柱や梁(はり)が邪魔になって思うように展開できないようであった。

数人を倒した後、とつぜん喀血した沖田はその場に倒れ込んでしまった。

結核である。蘭法医の松本良順の診察によれば、余命半年余りとのことであった。

だが、沖田総司はその病気を誰にも、近藤勇にさえも悟られることなく今まで隠し通してきたのだ。

この喀血により、沖田は病床につき新選組の第一線から退くことになる。

あくる日、沖田は申し合わせた通り坂本龍馬と入れ替わった。

長身の二人は、背格好がよく似ていたので、着ているものを交換するだけで顔をよく知らない者にとっては区別がつかなかったという。

「おや、沖田どの。これは不思議なこともあるものだ。一夜にして結核がすっかり治っている」

往診に来た松本良順は大袈裟に驚いてみせた。

「先生もお人が悪いやね」頭をかきながら龍馬が苦笑いをする。

「お父上」そこへ良順の娘が飛び込んできた。眼に大粒の涙をためている。「沖田さまが!」

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

沖田総司は帯刀していなかった。

病魔により、起きているのがやっとの状態だったのである。

敵の刃はまともに沖田の額に深く突き刺さった。声を立てる間もなく、二の太刀、三の太刀が沖田の身体を切り裂いていた。

「おい、これが本当にあの坂本なのか」

「さあ、分からぬ。あまりにも無抵抗すぎるな」

刺客たちはそのあっけなさに逆に恐れおののき、そそくさとその場を後にしたという。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

「先生。ほんなら、わしもこれにて死んだことにしとうせよ」

松本良順は手を洗って渋々答えた。

「まあ、いいだろう。結核患者の棺桶なんざ、漬物石が入っていたとしても、番所も開けやしねえだろうからな」

龍馬の頭の中に、先日の沖田との会話が鮮やかに蘇ってくる。

「龍さん。わたし達は間違っていたのですかね」

「そがなんはないぜよ。やり方が違うだけで、みんな日本のために働いただけなのさ」

「どちらにしても、わたしにはもう先がありません。龍さん、この国の将来はあなたに任せます」

「総司。寂しいこと言いなさんな。わしたちのは永遠ちゃ」

幕府が倒れ、明治政府が発足したのはそれよりも少し後のことである。

その後龍馬は、寺田屋に匿ってもらっている恋女房のおりょうとひっそりと暮らした。

「新婚旅行以来じゃな」

快活に笑う龍馬に、お竜も微笑みながら寄り添うのであった。

時どき西郷隆盛さいごうたかもり木戸孝允きどたかうじなどが、隠密で面会に来ていたようである。

当の本人は「わしなんかヒモのような生活ぞね」と自嘲していたが、まんざらでもなさそうである。

坂本龍馬は歴史の表舞台から消えた。

しかしその後も影の実力者として、日本の発展に君臨したのだという。

人びとは龍馬のことを、暗号で“布利居迷村ふりーめいそん”と呼んでいたという噂が残っている。信じるか信じないかは・・・

2月28日 ビスケットの日

 『ふしぎなポケット』という唄を知っているだろうか。

「ポケットの中には、ビスケットがひとつ

ポケットを叩くと、ビスケットがふたつ

もひとつ叩くと、ビスケットがみっつ

叩いてみるたび、ビスケットが増える」

あなたがそんなポケットを持っていたとしたならどうしますか。

ぼくは、アフリカに行きました。

アフリカで飢餓に苦しんでいる子供たちに、ビスケットを次から次へとポケットから出して食べさせてあげたのです。

子供たちはみんな元気を取り戻しました。

そんなある日のことです。いくらポケットを叩いてもビスケットが出てこなくなってしまったのです。

ぼくは焦りました。

「どうなってるのだろう」と、ポケットをのぞき込みました。

するとポケットの中から声が聞こえてくるではありませんか。

「ビスケットの代金として、しめて3億5千万円いただきます」

「え、どういうこと」ぼくはポケットの穴に向かって声を出していた。

「どうもこうもありませんよ。こっちは異次元世界のイングランドの製菓工場です。
あなたが次から次へとビスケットを消費なさるんで、もう原料も底をついてしまったのです。さあ、そろそろ支払いをお願いします」

「・・・ちょっと待って」

「お支払いいただけないようでしたら、あなたは末代まで一生こちらの工場で働いていただくことになりますが」

「こちらって」

「この世はメビウスの輪のようになっているのです。表と裏は表裏一体。知らなかったとは言わせませんよ」

周囲の子供たちも騒ぎはじめました。

この話は世界中を駆け巡った。

いよいよ返済期日がやってきた。もはやこれまでと、覚悟を決めたとき。

「ちょっと待った!」

ポケットの中から別の声がした。「ビスケットの原材料は、小麦粉と牛乳、バター、卵、砂糖でしたな。そっくり現物でお支払い致しましょう」

声の主は、異次元世界のインド政府だった。

「あなたのお優しい気持ちを無駄にできません。我が国はこれら原材料の豊富な産地国なのです」

「どうしてそこまでして」ぼくは涙ながらに尋ねた。

「これからの世界をリードするのは、米国でも中国でもありません。インドとアフリカなのです。
アフリカの人口減少を助けてくれた、あなたは恩人なのです。今の内にアフリカに恩を売っておくのも悪くないでしょう」

その後ぼくはインドに渡った。そしてお礼に日本の農業を教え、大勢の友達も作った。

もちろん、ポケットはすべて縫いつぶしておいて・・・。

 あとがき

最後までご覧いただきましてありがとうございます。

この物語はフィクションです。

登場人物、団体などはすべて架空のものです。

まれに似通った名称がございましても関係性はございません。

参考文献・サイト等

ドクターコパ・小林祥晃 1999 「Dr.コパの風水が教える開運マイホーム」 :㈱主婦と生活社 参照日:2023.7.24

自治体国際化協会 “風水の国”シンガポールhttps:wwwclair.or.jp/j/forum/forum/pdf_340/12_kaigai.pdf  参照日:2023.7.24

ベターホーム 抹茶の立て方・いただき方 https://www.betterhome.jp/info/2227 参照日:2023.7.20

ウィキペディア ロンドン塔 https://ja.wikipedia.org/wiki/ロンドン塔 参照日:2023.7.24

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著者紹介
杉村 行俊

【出   身】静岡
【好きな分野】推理小説
【好きな作家】夏目漱石
【好きな作品】三四郎
【趣   味】GOLF、楽器
【学   歴】大卒
【資   格】宅建士、ITパスポート、MOSマスター、情報処理2級、フォークリフト、将棋アマ3段
【創   作】365日の短編小説

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冬物語
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